『80歳の壁』からみる、幸齢者の鼠径ヘルニア日帰り手術

和田秀樹先生の大ベストセラー、『80歳の壁』は、当院の本棚から手に取られる患者様も多く人気の本です。寝たきりや要介護になるかもしれないターニングポイントとなる80代。この本では、80歳以上の方のことを“高齢者”ではなく“幸齢者”と呼び、高く厚い「80歳の壁」を超え、人生100年時代と言われる現代を、幸齢者が元気に自分らしく過ごすためのヒントがたくさん書かれています。今回のALOHA　LETTERでは、『80歳の壁』の内容をもとに、幸齢者の日帰り手術についてお話させていただきます。

大きな病院の専門医より地域の町医者が幸齢者向き
当院で行なっている日帰り手術の約6％が80代以上の患者様です。右の表は、当院への来院きっかけを年代別にまとめたものです。年代が上がるにつれて、他院様からの紹介率が高くなり、幸齢者世代は約9割もの方が紹介受診となっております。これは、基礎疾患などでかかりつけ医があるからこその数値です。「自分の考え方を受け入れてくれるかかりつけ医を探す」「大学病院の専門医ではなく、地域の町医者をかかりつけ医にしたほうがいい」と和田先生がおっしゃるように、幸齢者にとって、かかりつけ医は非常に重要です。当院は、手術をして完治すると終診になるため、かかりつけとして通院いただく機会が少ないのですが、『住み慣れた家で、自分らしい暮らしを最期まで継続できるよう、外科学を基盤に支援できるクリニックでありたい』という、当院の理念にあるように、地域の外科・手術室として、地域医療に携われることはとても嬉しいですし、地域の先生方に頼っていただけることを大変光栄に思っております。地域医療がもっと活性化されるよう、また、大切な患者様をご紹介くださった先生方のご期待に添えるよう、これからも最善を尽くしてまいります。

考え方を変えるのではなく、選択肢を増やしていく
当院を受診される患者様の中には、「全身麻酔の手術なのに日帰りで大丈夫なの？入院したほうがいいんじゃない？」と不安を感じられる方もいます。特に幸齢者世代には、日帰り手術の認知度が低く、また、国民皆保険制度のため、“手術=入院”という考えの方が多いのが現状です。日帰り手術を受けられる方の年代は、40代～60代が多く、働く世代向けの手術と考えられがちですが、日帰り手術こそ、幸齢者世代にうってつけだと思います。元気になるために手術したはずなのに、入院でかえってADLや認知能力が低下してしまうのは残念です。もちろん、入院を希望される方に無理強いして日帰り手術を受けていただくことはありません。ただ、日帰り手術という選択肢が増え、ご自身の生活スタイルに合った選択をすることで、術後のQOLの向上が期待できるのではないでしょうか。病院だと『入院』の一択になってしまいますが、日帰り手術も選択肢として認知されていくよう、普及活動を続けてまいります。

認知症は終わりじゃない。生きる知恵と力は残っている。
「父は認知症なのですが、日帰り手術できますか？」とご家族から電話でお問い合わせいただくことがあります。この本の中で和田先生が、「認知症になったら何もできない、なんてきめてかかる必要はありません。最期まで生きる力、生き抜く知恵が備わっている。」と伝えてくださっているように、認知症だから日帰り手術できないということはありませんし、認知症だからこそ入院に馴染めないという考えもあります。これまで、当院でも認知症の患者様の日帰り手術を手掛けてきました。手術着に着替える際、ご家族にお着替えを一緒にサポートしていただいたり、局所麻酔でお話しながら手術をしたり、来院から4～5時間で帰宅できるので、入院のように、認知能力が低下する心配もありません。また、「本人も困っていなさそうだし、手術をしなくてもいいでしょうか？」と悩まれるご家族もいらっしゃいます。もちろん、手術をしないというのも選択肢の一つです。しかし、嵌頓のリスクもありますし、緊急手術となったら入院は避けて通れませんので、まずは専門医の診察を受けていただき、そのうえで手術するかどうかを決めていただくのがいいと思います。