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院長ブログ 投稿日 2025-10-02、最終更新日 2025-10-02
臍ヘルニアの手術術式:ALOHA外科クリニックの治療方針
臍ヘルニアの手術術式:ALOHA外科クリニックの治療方針
臍(さい)ヘルニア(いわゆる「でべそ」)に対する手術は、主に次の2つの術式があります。
- 直接縫合法(単純縫縮)
- メッシュによる修復術
ヘルニアが大きい場合、再発を防ぐためにメッシュの挿入が必要になることが多いため、可能であれば大きくなる前に治療することをお勧めします。早い時期に手術を行うことで、身体への負担(侵襲)が少ない術式を選択できる可能性が高くなります。
成人臍ヘルニアの術式選択の基本とガイドライン
臍ヘルニアに対する術式は、一般的にヘルニア門の径によって選択されます。
ヘルニア門の径 | 標準的な治療 | 備考 |
---|---|---|
10mm以下 | 単純縫縮(直接縫合) | 再発率は比較的低い |
10~20mm程度 | メッシュ補強が推奨 | 縫縮のみだと再発リスクが増える |
20mm以上 | メッシュ修復が第一選択 |
これは標準的な治療法ですが、近年、メッシュ修復術の有用性を示す報告が増えています。
欧州ヘルニア学会(EHS)ガイドラインの根拠
2015年、海外の報告(Christoffersonら)では、ヘルニア門が2cm以下の症例でも、単純縫合閉鎖と比較してメッシュ修復術の方が有意に再発率が少ないことが示されました。
また、臍ヘルニアや白線ヘルニアには腹直筋離開が併存していることがあり、その場合、ヘルニア門の縫合修復だけでは再発率が高くなるため、メッシュ修復が必要という報告もあります。
これらの報告を受け、2019年のEHS(ヨーロッパヘルニア学会)ガイドラインでは、「ヘルニア門が1cm以上、あるいは腹直筋離開を合併する白線ヘルニアまたは臍ヘルニアに対するメッシュの使用が推奨される」という勧告が出されました。
日本人への適用と将来の手術を考慮した治療選択
ただし、これらのガイドラインや標準的な術式は、BMI 30以上が多い欧米人を基準としたものであり、全ての日本人の体格に当てはまるわけではありません。
さらに、人生100年時代に入り、長寿化に伴い、将来的にさまざまな病気を患うリスクがあります。例えば、日本人に多いがんは以下の通りです。
男性 | 女性 |
---|---|
1. 前立腺がん | 1. 乳がん |
2. 大腸がん | 2. 大腸がん |
3. 胃がん | 3. 胃がん |
4. 肺がん | 4. 肺がん |
5. 肝臓がん | 5. 子宮・卵巣がん |
また、鼠径ヘルニア、虫垂炎(盲腸)、胆嚢結石症などの一般的な疾患に対しても、将来的に腹腔鏡手術やロボット手術を受ける可能性があります。これらの手術の多くは臍(へそ)を利用して行われます。
もし臍ヘルニアの手術の際に好ましくない部位に広範囲のメッシュが留置されていると、その後の腹部手術の際に大きな支障をきたす問題が発生しかねません。
ALOHA外科クリニックの臍ヘルニア治療へのこだわり
当院では、将来的なリスクや患者さんのご希望も考慮し、以下のような治療方針を導入しています。
1. 不必要なメッシュは使用しない
一般的な推奨では「10~20 mm程度:メッシュ補強が推奨される」とされていますが、当院では患者さんの希望があれば、このサイズの症例に対しても単純縫縮(直接縫合)を積極的に導入しています。
- ヘルニア門の大きさは必ずCT検査で正確に評価します。
- 性別、BMI、腹直筋離開症の有無などを総合的に評価した上で、術式を選択します。
2. 単純縫縮で使用する糸の厳選
単純縫縮の場合、筋膜を縫合する糸にも種類があり、体内で吸収されるまでの期間が異なります。
糸の種類 | 特徴 |
---|---|
非吸収糸 | 半永久的に体内に留まる |
吸収糸 | 40〜70日程度で吸収されるもの、180〜210日程度で吸収されるものなどがある |
ヘルニア門を形成する筋膜の癒合には約1年かかると言われているため、当院では半永久的に体内に留まる非吸収糸を主に使用します。必要に応じて、吸収糸を補助的に追加することもあります。
3. メッシュ修復術の選択
メッシュによる修復術には、臍を切って挿入する開放手術と、腹腔鏡下手術があります。さらに、メッシュを挿入する部位によって術式が分類されます。
術式 | メッシュ留置部位 |
---|---|
IPOM (Intraperitoneal Onlay Mesh) | 腹腔内 |
TEP (Total Extraperitoneal) | 腹直筋と筋膜の間(筋膜外) |
SCOLA | 皮下筋膜上 |
近年、腹壁ヘルニアの治療は、以下の理由からIPOM法からTEP法へシフトしてきています。
- メッシュと腹腔内臓器の直接接触による臓器障害のリスク。
- 術後疼痛の発生。
- 広範なメッシュ留置が将来の腹部手術に支障をきたしやすい問題。
- IPOM法は高額な腹腔内留置メッシュや固定器具が必要となり、医療コストが高くなる。
現在、新しい術式としてe TEPも注目されていますが、手術時間が長いことや、正常な筋組織を破壊して広い剥離空間を作成し、広いメッシュを留置しなくてはならないといった問題点も指摘されています。
当院では、20mm以上の大きなヘルニア門の場合には、TEP法を導入し、より安全で確実な治療を提供しています。
患者さん一人ひとりの状態と将来を見据えた最適な治療法をご提案いたしますので、臍ヘルニアでお悩みの方はぜひ一度ご相談ください。
皆様が健やかな毎日を取り戻すお手伝いができることを、心より願っております。
この記事の文責者
新谷 隆 NIIYA TAKASHI ALOHA外科クリニック院長
資格・所属
- 日本外科学会専門医
- 日本消化器外科学会専門医・指導医
- 日本内視鏡外科学会技術認定医(胆道)
- 日本ヘルニア学会会員
- 日本緩和医療学会会員
- 日本短期滞在外科手術研究会
- 「がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会」修了
- NST研修修了 日本静脈経腸栄養学会
- 昭和大学消化器・一般外科兼任講師

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